ラガード戦略は必要か?知っておきたい商品普及のための考え方
イノベーター理論における消費者層の分類である、ラガード。マーケターや経営者なら、知っておきたい概念です。
とはいえ、
「ラガード層に対する施策に意味はあるのだろうか」
「自社商品をラガード層に広めるコツは何だろう」
と悩む人もいるかと思います。
そこでこの記事では、ラガードを含むイノベーター理論や、ラガード層へ効果的に訴求するための戦略などを解説します。イノベーター理論とラガードへの理解を深めて、自社商品をより広めていけるようになりましょう。
「ラガード」とは何かを知るにはイノベーター理論の理解が必要
「ラガードという単語自体、まだあまり理解できていない…」という人は、まずラガードとは何かを知ることからはじめましょう。
ラガードとは、マーケティング理論である「イノベーター理論」において、消費者層を分類したうちのひとつです。イノベーター理論とラガード含む消費者層の分類については、以下で詳しく解説します。
イノベーター理論とは消費行動に生じる「層」を説いたもの
イノベーター理論とは、新しい商品・サービスが登場したときの普及率を示す理論です。
1962年、アメリカ・スタンフォード大学の社会学者であるエベレット・M・ロジャースによって提唱されました。このイノベーター理論では、商品・サービスを採用する消費者層を、5つのタイプに分類しています。
イノベーター理論における5種の消費者層とは
上図の通り、イノベーター理論における消費者層は、
①イノベーター【革新者】
②アーリーアダプター【初期採用者】
③アーリーマジョリティ【初期追随者】
④レイトマジョリティ【後期追随者】
⑤ラガード【遅滞者】
に分けられます。
以下、それぞれの解説です。
①イノベーター【革新者】
イノベーターとは、新しい商品・サービスが登場したとき、それらをいち早く採用する消費者層のことです。イノベーター層は新しいものへの興味関心が強く、日常的に情報へのアンテナを張り巡らせています。
そして価値を見出せるものがあれば、コストが少し高くても購買に踏み切る傾向にあるのが特徴です。イノベーター層の市場における割合は、約2.5%だとされています。
②アーリーアダプター【初期採用者】
イノベーターほどではないものの、新しいものに関する情報を早いうちにキャッチし、購買する層がアーリーアダプターです。市場における割合は、約13.5%と考えられています。
この層は世間のトレンドに敏感で、これから流行りそうなものを採用します。また、口コミや感想などを発信することで、オピニオンリーダー・インフルエンサーと呼ばれることもしばしばです。
③アーリーマジョリティ【初期追随者】
アーリーマジョリティは、新しいものや流行への情報感度は高いものの、それらを採用することにはやや慎重な層です。市場における割合としては、約34%を占めると考えられています。
アーリーマジョリティ層は消費行動の際、アーリーアダプター層の意見を参考にする傾向があります。また、商品・サービスを採用するのに新しさや流行だけでなく、合理的な理由を求めるのも彼らの特徴です。
④レイトマジョリティ【後期追随者】
新しい商品・サービスの採用に消極的なのが、レイトマジョリティです。市場における割合は、アーリーマジョリティと同様、約34%と考えられています。レイトマジョリティ層は、世間一般にその商品・サービスが浸透していることを確認してから、自らも採用に動きます。
⑤ラガード【遅滞者】
ラガードは、消費者層の5つのタイプのうち、最も保守的な層です。世の中の動きや流行への関心が薄く、新しいものや流行っているものをあまり採用しません。
さらに、世間に普及しているだけでなく、伝統的・文化的にも浸透していることで価値を感じる傾向にあるのも特徴です。市場全体では、約16%がこのラガード層にあたると考えられています。
イノベーター理論に欠かせない「キャズム」の存在
イノベーター理論に関連して、キャズムという概念があります。新規事業の立ち上げにおいて避けては通れない問題になるので、チェックしておきましょう。
キャズム理論とは消費者層の間に「溝」が存在するとした理論
キャズム理論では、まず市場をイノベーター・アーリーアダプターからなる「初期市場」、アーリーマジョリティ・レイトマジョリティからなる「メインストリーム市場」に分類しています。
この初期市場とメインストリーム市場の間には、キャズムという大きな溝が存在していると考えています。このキャズムを乗り越えられない限り、新規商品・サービスを打ち出してもやがて市場から消えてしまうだろう、と唱えられました。
アーリーアダプターへの訴求が最重要とされる
アメリカのマーケティングコンサルタントであるジェフリー・A・ムーアは、アーリーアダプター層が商品・サービス普及のカギを握ると提言しています。
前述の通り、アーリーアダプター層は口コミや感想を広める性質があり、アーリーマジョリティ以降の層の消費行動に大きな影響を与えます。そのため、アーリーアダプター層への訴求に最も重きが置かれているのです。
ラガード戦略は不要なのか?変わりゆくラガードの割合
前述のように、マーケティングにおいてはアーリーアダプター層への訴求が重要視されています。では、ラガードに対する戦略を立てる必要性はあるのでしょうか?この点について、以下で掘り下げていきます。
ラガードへの訴求は軽視される傾向が強い
ラガード層は、新しいものや流行に興味を示さない、あるいは懐疑的・否定的な態度をとる傾向があります。新商品・サービスが世に出たとしても、既存のものを使い続けたり、見向きもしなかったりします。
そのため、イノベーター理論にもとづいてマーケティング施策をおこなう場合、ラガード層への施策はうまくいかない、すなわち優先度が低いと考えられがちなのです。
ラガードの割合が増えているという調査結果がある
マーケティングにおいてラガード層は軽視されがちではあるものの、ラガード層の割合は大きくなっている可能性があります。
2018年、三菱総合研究所の生活者市場予測システム(mif) で、新製品に対する採用者のカテゴリーの割合が推計されました。その結果、ラガードの割合は26.3%にものぼっています。これは既存のイノベーター理論を10%も上回る数値です。
また、2022年、ネオマーケティングがZ世代とよばれる若者992人を対象に、新商品の購入に対する考え方を調査したデータがあります。それによると、「自分はラガードだと思う」という回答が全体の44.3%にものぼりました。
上記のようにラガード層の増加を示すデータがあることをふまえ、マーケターや経営者はラガード層ときちんと向き合い、戦略を考える必要があるといえます。
ラガードの特徴を踏まえた訴求ポイントとは
マーケティング施策を成功させるには、消費者層の特性をふまえたうえで訴求するのが大切です。ラガード層に訴求するならば、以下の点をアピールポイントにしましょう。
- その商品・サービスが定番になっていること
- ほかの新規商品と比べて安心できること
- 長い歴史をもっていること
長年多くの消費者に選ばれており、安心して利用できることを強みとして打ち出すことで、ラガード層を惹きつけやすくなります。
ラガード層を重要視して成功をおさめた企業の事例
ラガード層は、新しさよりも安心感を求め、旧来のやり方を好みます。そのニーズに応えるサービスを提供することで、うまくいっている企業もあります。ここではその具体例を見ていきましょう。
事例①有人サービスを大切にする大手鉄道会社
今は鉄道利用の際、きっぷ予約などはインターネットで済むようになっています。それでも根強く残っているのが、駅員による有人サービスです。
例えば、JR東京駅にある大きな有人窓口。そこでは新幹線のきっぷ販売をしており、多くの人が列を作っています。また、JR東海でも有人窓口「JR全線きっぷうりば」を設置しており、幅広い利用者層に対応できる体制を整えています。
事例②インターネットの利用を最小限にしている大手通販会社
通販においても、今はインターネットから注文することが可能です。しかし、あえて今までのやり方に注力している企業があります。
それが、大手通販会社「ジャパネットたかた」です。ジャパネットたかたは、今でもテレビ・ラジオからの販売をメインに据え、電話注文に対応しています。お昼どきにテレビを見ているとよくCMを目にするため、そのことを実感できます。
イノベーター・キャズム理論と併せて知っておきたい「クリティカルマス」
これまでイノベーター理論・キャズム理論について解説してきました。加えて知っておいてほしいのが、クリティカルマスの考え方です。
普及率アップの分岐点【クリティカルマス】
クリティカルマスとは、商品・サービスの市場普及率が一気に跳ね上がる分岐点のことです。基本的にこの分岐点は、市場全体の16%に普及した点であるとされています。
クリティカルマスに至るための施策として挙げられるのは、影響力をもつアーリーアダプター層が見ているクラウドファンディングでのアピール、既存商品とのセット販売などです。
カギとなる「普及率16%」の捉え方
クリティカルマス理論もキャズム理論も、それぞれ「普及率16%」に着目しています。ただし、それぞれの理論で考え方が異なる点に注目です。
クリティカルマス理論では、イノベーターとアーリーアダプターからなる初期市場に商品・サービスが普及すれば、おのずとほかの消費者層にも普及すると唱えています。
一方でキャズム理論は、アーリーアダプターからアーリーマジョリティの間には深い溝(キャズム)があり、ここを越えるためにはアーリーマジョリティ攻略も重要になるというスタンスです。
製品を普及させるために参考にしたいフレームワーク3選
マーケティング戦略を考えるうえで便利なのが、フレームワークです。すでに完成している枠組みに、自社製品やユーザー心理などの要素を当てはめて、戦略立案のヒントを得ましょう。以下、おすすめのフレームワークを紹介します。
【AIDMA(アイドマ)】顧客の態度に対応した施策を検討する
顧客が商品を購入するまでの態度を順番にまとめたのが、AIDMAです。
そのプロセスは、
Attention(注意・認知)
Interest(関心)
Desire(欲求)
Memory(記憶)
Action(行動・購入)
となっています。
顧客は商品・サービスを「認知」して「関心」をもち、買ってみたいという「欲求」が生まれます。それを「記憶」し、最終的に「購入・利用」する、というわけです。この認知から購入までのユーザー心理の移り変わりを的確に掴めれば、効果が見込めます。
【AISAS(アイサス)】ネット上の認知から購買までのプロセス
AISASは、AIDMAから派生したフレームワークです。インターネットが普及したことで、検索することやSNSなどでの情報発信が当たり前の世の中になりました。
そのため、従来のAIDMAのプロセスに「Search(検索)」「Share(共有)」が追加され、以下のようにまとめられています。
Attention(注意・認知)
Interest(関心)
Search(検索)
Action(行動・購入)
Share(共有)
インターネットが普及した現代では、購入までの心理・行動だけでなく、購入後の発信行動まで検討・分析する必要があるということです。
【STP分析】商品の売り出し方を分析
STP分析は、以下の3つの視点から自社商品の売り出し方を検討する手法です。
Segmentation(セグメンテーション)
Targeting(ターゲティング)
Positioning(ポジショニング)
まずセグメンテーションで、共通のニーズをもつ市場・顧客を、年齢や性別などいろいろな切り口から細分化していきます。次のターゲティングは、細分化した市場・顧客からどの層をターゲットにするかを決定する工程です。
最後にポジショニングで、ターゲットに対して有効な、競合と差別化できる点を検討します。ビジネスを成功させるには、適切な市場、ターゲットのニーズ、そして自社商品の強み・独自性を把握しなければなりません。STP分析を取り入れて、これらの要素を洗い出しましょう。
AIDMAやAISASのフレームワークが使われるカスタマージャーニーマップとは?
まとめ
ここまで、主にイノベーター理論とラガードについて解説してきました。イノベーター理論では、消費者層を5つのタイプに分類しています。そのなかでもラガードは、新しいものへの興味関心が薄かったり旧来のものを好んだりする層だということがわかりました。
このことをふまえて、ラガード層向けの施策を考える際は、新しさや機能性などではなく、安心や歴史といった視点から訴求するのがポイントです。また、マーケティング施策を考えるうえで、フレームワークも積極的に活用していきましょう。