MRRとはどんな数値?種類や計算式、改善策を解説
定額制サービスの需要拡大により、サブスクリプション型ビジネスに参入する企業が増えてきています。このサブスクリプション型ビジネスやSaaSにおいて、MRR(月次経営収益)は重要な指標のひとつです。
しかし「MRRの活用の仕方や計算方法がわからない」というお悩みを抱えている企業も少なくありません。そこで本記事では、MRRの基本知識と正しく業績を評価するための効果的な活用方法について詳しく解説します。
MRRとは毎月継続的に発生する収益を表す数値のこと
MRRとは月次経営収益の略で、業績の評価に使われる数値です。継続的に毎月発生する収益のため、月額制のサービスを扱うサブスクリプション型ビジネスやSaaSにおいて重要な指標となります。
これらのビジネスは顧客が継続的にサービスを利用することで収益が得られるのが特徴です。そのため、収益の中でMRRが占める割合が多いほど、事業の安定性や成長が見込めます。
MRRを毎月比較して分析すれば、中長期的な成長率を予測することも可能です。
MRRの4つの分類
MRRと一言で言っても、計算して数値を算出するためには、いくつかの種類に分類する必要があります。ここでは、4つのMRRの種類と内容を見ていきましょう。
New MRR(新規MRR)
全体の内、新規顧客からのMRRがこのNew MRRに該当します。主にサービス立ち上げ時などは、サービスにかけたコストと収益が見合っているかチェックするためにも、この指標が重要となります。
Expansion MRR(アップグレードMRR)
すでにサービスに登録している顧客が、前月に比べて商品やサービスになんらかのアップグレードを加えたときにカウントされるのがExpansion MRRです。
別名「アップグレードMRR」とも言われ、今よりランクアップしたプランへ契約するアップセルや、現状とは違う新たなサービスを契約するといったクロスセルなどが該当します。
このMRRは自社の利益拡大につながるため、契約者が増加し始めたら継続的にチェックしたい指標です。
Downgrade MRR(ダウングレードMRR)
Expansion MRRとは真逆に、既存の顧客がサービスのグレードを落とすことで計上されるのがDowngrade MRRです。この数値が増えるほど自社の損益にもつながるため、数値が増えたら契約プランやサービスそのものを見直す必要があります。
Churn MRR(解約MRR)
既存顧客が商品を解約したり、サービスを退会したときにカウントされるMRRです。Churn MRRが増えると顧客からの収益はゼロになるため、サービス存続のためにはこの数値を最小限に抑えなければなりません。
なぜその月にChurn MRRが増加したのかを分析し、改善策を施すことが事業の安定性を保つためには重要です。
MRRとその他の評価指標との違い
MRR以外にも、サブスクリプション型ビジネスやSaaSには重要視されるKPIがあります。ここでは、各評価指標の役割をMRRと比較しながら解説していきます。
ARRとの違い
MRRは毎月継続して発生する利益を指しますが、対してARR(Annual Recurring Revenue)は毎年の収益、つまり年次経営収益を意味します。
サブスクリプションサービスなどには月額プランの他に年契約のプランもあり、それらのサービスはこのARRが重要な指標です。なお、これらは継続的な収益がカウントの条件なので、単発の収益は対象外となります。
NRRとの違い
NRR(Net Revenue Retention)は売上維持率を意味します。これは簡単に言うと、当該月に得た収益の増減率のことで、この数値が高いほど企業の成長率も高いと推測できます。
MRRは毎月の継続収益を明らかにするものなので、NRRのように増減率まではわかりません。
GRRとの違い
GRR(Gross Revenue Retention)は、総収入維持を表す用語です。その名の通り、指定された期間中に維持された収益の割合を示します。ちなみにGRRには、アップセルによる収益(Expansion MRR)や新規顧客による収益(New MRR)は含まれません。
目安としては大企業向けのサービスで最高90%、中小企業向けの場合は80%がGRR値の目安です。
ARPU・ARPAとの違い
これまでは全体の収益を表す数値でしたが、個人の収益を表す指標もあります。例えばARPU(Average Revenue Per User)は、ユーザー1人あたりの平均売上金額を示します。
対してARPA(Average Revenue Per Account)はアカウント単位で平均売上を算出します。これらもMRRと同様にKPIとして設定されることが多いので、覚えておきましょう。
CACとの違い
CAC(Customer Acquisition Cost)は、ユーザー1人を獲得するのにどれくらいのコストをかけたか、つまり顧客獲得費用を表す指標です。これは顧客獲得に対する自社のコストパフォーマンスを図る重要な指標となるため、的確な分析が必要です。
CACを分析することで自社の戦略の有効性や、全体予算が顧客にどれくらい反映されたかがわかります。ここを見直すことでMRR等、その他の指標の増加にもつながるので、安定した収益を得るために役立てましょう。
MRRが必要とされる理由
では、なぜMRRがサブスクリプション型ビジネスやSaaSに求められるのか、具体的な理由をチェックしていきましょう。
各MRRのバランスからビジネスの成長性や健全性が分析できる
SaaSビジネスの場合、ビジネスの成長率を知る指標としてSaaS Quick Ratioというものがあります。これは、各MRRの指標から算出されるため、それぞれの数値が重要な判断基準となります。
この値が大きければ大きいほど、ビジネスの健全性は保たれ、今後の発展も期待できるといえるでしょう。SaaS Quick Ratioの数値は(New MRR+Expansion MRR)÷(Downgrade MRR+Churn MRR)の計算式で算出可能です。
ビジネスの成長率が数値化され投資の可否が判断しやすくなる
MRRのように事業の成長率が可視化される指標は、投資家にとってその企業に出資するかどうかの判断材料になります。MRRのうちのどのプロセスに注目するかは、企業の成長フェーズによりさまざまです。
例えば、企業の創業段階ではNew MRRを、成長が進むにつれてアップセルやダウンセルに目を向けるならExpansion MRRやDowngrade MRRをそれぞれ評価するようになります。つまりMRRは自社だけに止まらず、投資家側にとっても重要な指標となるのです。
MRRの計算式と計算例
MRRは、契約中のプラン数によって計算式が異なります。計算例を交えて、計算法を覚えておきましょう。
基本の計算式と計算例
MRRは次の計算式で数値を出すことができます。月額利用料金 × 顧客数=MRRまずは料金プランが2種類あった場合を例にとり、計算方法を見ていきましょう。
ライトプラン:月額9,500円
スタンダードプラン:月額25,000円
上記のプランを各10社ずつ契約していた場合の計算式は以下の通りです。
9,500×10社+25,000×10=345,000
つまり345,000円がMRRとなります。また、ARPU の場合は×ユーザー数、 ARPA の場合は×アカウント数でもMRRの数値を求めることができます。
複数の契約期間がある場合の計算式と計算例
契約プランが複数ある場合は、上記の計算方法よりも複雑になります。例えば年間契約している場合は料金プラン÷12×顧客数、半年契約なら料金プラン÷6×顧客数というように、一度月額に直してから計算しなければなりません。
さらに、これらの契約プランをすべて合計することで、MRRが算出できます。では、具体的な計算方法を見ていきましょう。
月額プラン:10,000円 契約数10社
半年契約プラン:60,000円 契約数8社
年間契約プラン:120,000円 契約数5社
このような契約状態の場合の計算方法は以下の通りです。
10,000円 × 10社 + 60,000円 ÷ 6カ月 × 8社 + 120,000円 ÷ 12カ月 × 5社 = 230,000
つまり、230,000円がこの事業のMRRとなります。契約形態が異なるサービスの場合は、こちらの計算式でMRRを算出しましょう。
MRRの計算時に注意すること
MRRの計算方法は上記に示した通りですが、実際の計算にはいくつか注意点があります。特に気をつけたい点を3つ紹介します。
割引や無料期間を考慮する
サブスクリプションサービスなどには、トライアルのお試し期間や初年度割引といったディスカウントを提供しているケースが多くみられます。このような無料期間や割引期間がある場合は、MRRの計算に注意が必要です。
例えば初月無料のサービスであれば、無料期間の月はMRRの計算に含めてはいけません。また、1カ月料金が半額のディスカウントを設けた場合は、MRRに加算するのも50%の料金となります。
もしこれらを加算してしまうと、トライアル終了の翌週に膨大な解約数が計上されるなど、正しいMRR値を算出できなくなります。こうした期間を設ける場合は、正確な数値で計算するようにしましょう。
初期費用やオプション費用を含めない
MRRはそもそも、顧客から毎月定額で得られる収益が定義です。そのため、MRRを正しく計算するにはその他の金額を含めてはいけません。
登録に必要な初期費用や顧客が自ら選んで付随するオプション料金などとは明確に分ける必要があります。同じユーザーから得られる収益ではありますが、これらの収益はしっかりと区別して計算しましょう。
支払遅延を考慮する
契約ユーザーによっては、月の支払いに遅延が発生するケースがあります。例えばコンビニ支払いによる遅延や、クレジットカードの期限切れなどが主な理由です。
もし支払い遅延があったとしても、契約自体は続いているので基本的には未入分もMRRに含めて計算して問題ありません。しかし、遅延が続く場合にはMRRには計上しない方が良いでしょう。
支払い遅延の対策としては、支払いが遅れて未入金の状態が◯カ月続いたらその時点で契約終了というように、強制解約の規約の制定や設定をしておきましょう。
分類別|MRRを向上・改善するための考え方
MRRを改善させるためには、それぞれ種類別の対策方法があります。ここでは4つのMRRに分類して、具体的な戦略を紹介します。
New MRRを改善したい
New MRRは新規顧客の獲得なくては改善できません。もしこの数値が芳しくない場合は、そもそもの母数を増やすためにリードを増やす、CVRを向上させるための施策を講じるなどの対策を行いましょう。
サービスの契約数を向上させるためには、クロージングを見直すことも重要です。例えばWebサイトやLPのABテストを行ったり、ターゲティングの修正をしたりするのも有効性があります。
もし集客自体はあるのにCVRにつながっていないのであれば、広告自体のアプローチ方法を変えてみるのもひとつの手です。
Expansion MRRを改善したい
Expansion MRRの向上には、アップセルやクロスセルが必須です。そのためには、契約プランやサービス自体に顧客が利用するメリットが盛り込まれていなければなりません。
例えば、アップグレードすることでより快適になる仕様や、効果的なプロモーションでファン化を促すなど、商品やサービスの魅力を訴求することが重要です。また、料金が上がることへの抵抗感を少なくするために、アップセルのプランにお試し期間を設けるのも良いでしょう。
実際に利用することでアップセルへのハードルが下がり、契約につながりやすくなります。クロスセルの場合は、ファン化した顧客や契約単価の高いリードに対してアプローチをかけると効果的です。いずれもターゲティングを洗い出して、優先的に実施しましょう。
Downgrade MRRを改善したい
Downgrade MRRが高いとサービスの損益につながるため、早急に対処しなければなりません。まずは顧客の満足度をアップさせるための、サポート機能を手厚くしましょう。
商品やサービスをダウングレードする場合は、顧客の多くは使い勝手の悪さやサービス自体に不満を抱いているケースが多く見受けられます。
メールやチャットなどで顧客と積極的にコンタクトをとる、サービスの内容を見直してベネフィットをアピールするなど、顧客の心を動かす施策を講じましょう。
ニーズや不満を正確に把握するために、アンケートの実施やオンボーディングの強化を行うのも有効な改善策となります。
Churn MRRを改善したい
Churn MRRが高い状態であることは、リードを手放し損益を被ることに直結するため深刻な問題です。一刻も早く現況を打開するためにも、商品やサービスそのものの見直しが望まれます。
料金プランが顧客に見合っているか、サービス内容がマンネリ化していないか、顧客に対するサポートは十分に行えているかなど、解約の原因を探ってフィックスしなければなりません。
顧客にサービスに対する価値を感じてもらえるよう、ヒアリングを行いながら顧客ロイヤリティを育てることが解約抑止につながるでしょう。
まとめ
MRRは毎月継続的に得られる収益を知るための重要な指標のひとつです。サブスクリプション型ビジネスやSaaSでは、MRRの分析が今後の事業の発展にも直結します。正しい計算方法で数値を算出し、自社のサービス向上に活かしましょう。